麻と日本文化の深い歴史

日本の麻の歴史は古く、一万五千年以上前から日本人にとってはなくてはならない特別な植物です。

人が亡くなった時に棺桶を麻で巻きつけ「縁の綱」と言う麻紐を棺桶に結び付け、それをご縁ある人々がひいてお墓まで行き、土に埋蔵します。
その際に、床掘りさんが必ず聞く事があります。
それは、「どなたか近々、赤ちゃんが産まれる予定の方はいませんか?」
棺桶に巻いた麻は、妊婦さんへと受け継がれ妊娠を祝う岩田帯を締める紐と一緒に巻かれ、新しい生命が誕生した時は、赤ちゃんのへその緒を麻糸で切りました。

お七夜と言うお食い初めには、おガラと言う麻の茎のお箸で食べる真似をします。
その行事が済んでから着る産着は麻の葉柄で作られており、魔除けとも言われ、麻のように真っ直ぐにスクスクと健康に育つようにとの願いが込められています。

そしてその子が成長し、結納に使われる『共白髪』は、夫婦仲良く共に白髪が生えるまで添い遂げると言う意味で精麻で作られます。新築の家を建てる地鎮祭には切麻と言って、切った麻を地面に撒いて土地を浄化し、棟上げ時には建物のてっぺんに麻で縛ったお護りで、その土地と屋根の間に住む人々が健やかに過ごせるように神様にお願いします。

お盆にお供えする馬と牛の脚はおガラで作り、馬に乗り速くこの世に帰って来てもらい、牛に乗りゆっくりとあの世に帰って頂く、迎え火と送り火に、おガラを焚いてこの世とあの世を結ぶ道筋にします。

今でも大切な行事に使われています。

いつも人生の大きな節目には麻と共に過ごしていたのです。
神道で使われる神具にも様々な箇所で使われています。注連縄、鈴の緒が有名ですが、自宅の神棚に納められる伊勢神宮のお神札は神宮大麻と呼ばれ、そのお神札の中心部にある紙の裏には、麻が収められています(紙に覆われているので目には見えない)。 
神道の基本は、祓い清めること。その行事に使われるのが、麻と塩。大地の恵みと天地の恵みといわれ、大地が麻、海洋が塩水です。

日本の文化やしきたりに使われた神聖な植物「麻」。 
裃(かみしも)という麻の肩衣と半袴を着て、縁の綱の麻紐を持ってお別れし、その麻紐は必ず近々、赤ちゃんが産まれる方へ受け継がれ岩田帯を締める紐と一緒に麻が巻かれ、新しい生命が誕生のとき、へその緒を麻糸で切ってました。
その後は『お食い初めの箸』『結納の共白髪』、新築、地鎮祭には切麻など、大麻、麻は「神様のしるし」あるいは「神様の宿る神聖な繊維」とされ、人生の節目や季節の節目に使われてきました。

麻栽培の現状

  • 古来より大麻は神事に用いられ、日本の伝統文化の様々なシーンで大麻は使われてきたが、ネガティブなイメージになったのは戦後こと。
  • GHQによって大麻取締法が施行され、占領中に創られた偏見が蔓延する中で、日本の大麻生産は今や風前の灯!
  • 日本の大麻の大半は栃木県産。 他の県で生産はしているものの保存会などの組織による取組みで農業としては成立していない。
  • 神事に用いる「精麻」に限って言えば、生産の90%を栃木県鹿沼市の十軒の農家が担っている。年齢層は80、70、60代。そのうち後継者がいるのは一軒のみ。最近、30代の女性が加わり、11軒となった。
  • 作付面積は一反から二反半! 日本一の麻農家でさえ、年間3~5ヘクタール程の栽培。
  • 通常は夫婦二人での作業になるため、どちらかでも倒れたらそれで廃業。まさに危機的状況である。
麻の手挽
驚くべきは、すでに神社で使われるものの90%が中国産の麻であり、ときに模造品のビニール製で代用することもあります。
その背景としては、次のことが挙げられます。

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●大麻取締法と麻の栽培許可
大麻取締法は大麻を禁止する「法」だと思いますが、実はそうではありません。大麻取締法は日本の大麻生産を守るために作られたものであるのです。戦後、占領軍は聞く耳を持たず、麻の「栽培を禁止し、種子を含めて本植物を絶滅せよ」との指令を発しましたが、『繊維の採取を目的とする大麻の栽培に関する件』なる覚書が出され、一定の制約条件のもとにタイマの栽培が許可されました。その条件とは、『栽培面積を「全国で5,000ha」に、栽培許可県を「青森、岩手、福島、栃木、新潟、長野、島根、広島、熊本、大分、宮崎の12(原文ママ)県」に限ること』でした。
「栽培目的」を「伝統的な祭事等、社会的、文化的な重要性が認められるものを継承するもの、又は、一般に使用されている生活必需品として生活に密着した必要不可欠なものである場合に限る」つまり、この二つの目的以外では、例え、繊維や種子を採るためであっても栽培は認められないのです。

●麻栽培規制による後継者育成問題
《栃木県の麻農家さんから伺った話》
・研修制度自体が禁止なので最初から社員として雇わなければならない
・社員として雇えるとしても栃木に住所がないと雇うことができない
・上記の理由から県外の人を短期間で雇用することができない  
・夫婦のうちどちらかが足を悪くしたら「来年は栽培をやめよう」となり、高齢化とともに労働力不足で毎年減っている
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※2022年9月に厚生労働省が医療用大麻の解禁や大麻栽培者への過剰な栽培管理規制の見直しなど法改正に向けた方向性を公表しました。伝統的な麻文化の継承に向けて国全体が動きだし、ここからという感じでしょうか。

日本には2万社の神社があると言われてますが、多分98%くらいの神社では国産の麻の代わりに輸入品かビニールが使われています(鈴の緒、おおぬさなどの祓い具には、古来、大麻繊維が用いられてきた)。結局、栽培者が減ると流通業者も減ってしまうので、余計行き渡りません。多分、宮司さんでも国内で麻を栽培しているのを認知してる人は少ないですし、中国産に「本州麻」とラベルを付けて売られているので国産だと思って使ってる人もいます。
神事や伝統文化に使える繊維は一部なので、それ以外の部分はより身近に使えるものに加工することで、今後、麻農家をはじめられる方も成り立っていけます。より身近に感じてもらえる物づくりを目標にやっています。

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と、麻農家さんは仰っしゃっていました。
「日本産の大麻を使えるのもあと何年だろう」と神職からも聴きます。
以上の話は、主に、栃木県鹿沼市で400年の歴史がある大麻農家さんからお伺いしました。
こういう事情で「精麻」は高騰し、ビニール製や薬漬けの粗悪な中国産大麻を神事に使わざる得ない神社も多いのが現状です。

    野州麻トチギシロブランド麻

    国産の麻(神麻、特等)は、独特の輝きや手触りがあり、外国産にはない魅力があります。
    
    ※栃木県鹿沼市で400年の歴史がある麻農家が、種から生育した大麻(オオアサ)を収穫、湯かけ、麻剥ぎ、麻引き、精麻干しまでを一貫管理し作り上げた精麻を取り扱ってます。
    
    ※「トチギシロ」というブランド麻
    (神麻、特等)1本 約170~180cm、とても薄く艶があり、割きやすいため細かい作品作りに向いています。
    
    ※麻の持つ本来の強さと艶を大切にしているため麻ひき後の漂白などは一切行ってない精麻を麻農家直で取り寄せ(色ムラや表皮の残り具合は栽培する年によっても異なります)

    麻剥ぎ(あさはぎ)

    発酵した麻茎を数本まとめて剥ぐため、傷にならないように一気に真っ直ぐ剥ぎます。数本の麻茎が一緒になり1枚の精麻を作りだしているので、剥いだ繊維がからまないように1枚ずつ「の」の字に重ねます。

    麻ひき

    麻のひき時は発酵具合は手触りで判断しながら表皮のカス=麻垢を削り取り繊維を取り出す作業。「の」の字の重ねていた時点では数本分の表皮が、「麻ひき機」に表皮を入れ回転に合わせて繊維を引き出すと帯状の1枚の精麻となります。
    

    麻かけ

    取り出された精麻を「麻掛け竿」に1枚ごと掛け、風通し良くし、日陰で3~4日間ほど乾燥(=麻干し)。品質分けした後、私たちの手元に届くのです。